残留農薬のポジティブリストとは、食品に残留する農薬の限度量を一覧表にしたもの

農薬というと、消費者にとって、あまりいいイメージがないかもしれません。それは、残留農薬として、過去に国内で問題になった無登録農薬の不正使用や、国内で禁止されている農薬が輸入農産物に混入していた等の理由が挙げられるからかもしれませんね。

食品の安全を守るため、平成18年に従来の制度から移行され、施行されたポジティブリスト制度。この記事では、その制度について説明します。

「残留農薬についてのバリデーションされた評価試験法が食の安全と人々の健康を守る」

農薬ってなに?

農薬取締法における「農薬」は、大きく分けて3つに分類されます。1つ目は、農作物を害する菌、線虫、ダニ、昆虫、ねずみなどの動物、または、ウィルスなどの病害虫の防除のために使う殺菌剤や殺虫剤などの薬剤、2つ目は、農作物の生理機能の増進や抑制に使う植物成長調整剤、発芽抑制剤などの薬剤、3つ目は、農作物の病害虫を防除するために使用する「天敵農薬(自然界の生物における天敵を人為的に利用して防除すること)」です。

一般的に、農薬とは、農業において消毒や防虫などのために使う薬剤を指します。農薬の安全性は、農薬取締法に基づき、製造、販売、輸入から農薬の使用に至るまでの全過程で厳しく規制されています。つまり、農林水産省に登録されている農薬のみが製造、輸入、販売できるという仕組みになっていて、この仕組み(農薬の登録制度という)により、農薬の安全性が確保されています。

農薬は、どうして必要なの?

病害虫や雑草は、野放しにしておけば、農作物が害虫により病気になったり、雑草が増えて農作物の収穫量が減ったり、品質が低下したりしてしまいます。農薬は、そうした事態を避けるために使用されます。日本では、昔、稲に付く虫を追い払うために、農家が総出で太鼓や半鐘、たいまつ等を持ち、大声を出して田んぼのまわりを歩いたと言います。

いわゆる「虫追い」「虫送り」と呼ばれるものですが、病害虫に有効な防除方法がなかった時代には、こうした作業により大切な農作物を守るしか方法がありませんでした。雑草についても手取りによる除草が中心であるため、炎天下での除草作業は、農家にとって大変な重労働でした。

残留農薬ってなに?

農業では、特定の作物を人為的に単一栽培するため、病害虫や雑草が発生しやすい状態です。したがって、農作物の収量と品質の維持および確保、そして農作業の負担軽減には、農薬は必要不可欠な存在であると言えます。しかし、使い方によっては、生物や環境に何らかの影響を与えてしまうのが農薬です。

残留農薬とは、こうした農薬が農作物に残っていることを言います。農薬が農作物に残った状態で食べ続けてしまうと、人の体に様々な影響が現れるようになります。例えば、めまい、吐き気、かぶれ、発熱などの身体的症状、さらには、精神的症状となって現れることも少なくありません。

このように、食品中の残留農薬が、人の健康に害を与えることがないよう、厚生労働省では、すべての農薬、飼料添加物、動物用医薬品に対し残留基準を設けています。

食品中の残留農薬はどうやって調べるの?

2018年、食品安全委員会により食品安全に関するアンケートが行われました。そのときの回答で約50%を占めたものが、残留農薬について「とても不安に感じる」「ある程度不安を感じる」というものでした。残留農薬に関する消費者の関心の高さが伺えます。

国内に流通する食品や輸入品については、自治体や国が残留農薬の検査を行っています。検査は、自治体の監視指導計画に基づいて検査予定数を決めて行われています。国内で行われている一般的な残留農薬検査の流れとしては、農産物を細かく切る試料調整、農薬成分の抽出、不要なものを取り除く精製、残留農薬の種類や濃度の分析といった4つの工程を経て行われます。

最終的な分析段階で、農薬成分が検出された場合には、その農薬の種類と濃度が求められ、残留基準値に適合しているかどうか判断されます。もし、残留基準値を超過した農産物があれば、その販売は禁止されます。ちなみに、食品中の農薬の残留基準値とは、定められた方法で農薬を使用した際の残留濃度を基に設定された数値のことです。

一方、輸入品については、輸入時の検疫所への届出が必要です。届出された輸入食品の中から、モニタリング検査を行い、違反が確認されると、検査頻度を高めたり、違反の可能性の高い食品は、輸入のたびに検査を行ったりします。

また、違反が確認された食品については、廃棄、もしくは、原因究明や再発防止措置が講じられます。

ポジティブリスト制度ってなに?

残留基準値について前述で簡単に説明しましたが、ここで、厚生労働省が定める残留基準について触れておきましょう。残留基準は、人が摂取しても安全であると評価した量の範囲を示しており、食品安全委員会により食品ごとに設定されています。

農薬などが、その基準値を超えて残留する食品の販売、輸入などの行為は、食品衛生法により禁止されています。これをポジティブリスト制度と呼びます。

ポジティブリスト制度導入の経緯

平成15年5月の食品衛生法改正に伴い、従来のネガティブ制度からポジティブリスト制度へ移行し、平成18年5月29日からポジティブリスト制度が適用されるようになりました。ポジティブリスト制度導入のきっかけは、食品衛生法の法改正ですが、では、この法改正のきっかけは何だったのでしょうか。

それは、全国的に問題となった無登録農薬の不正使用と、国内では使用できない農薬が輸入農産物から頻繁に検出されたことがきっかけでした。消費者が口にするであろう農作物から、このような形で残留農薬が検出されたことに対し、当時の国民は大きなショックを受けました。

こうした事実を踏まえ、食品の流通を規制する目的でポジティブリスト制度は導入されました。

従来の制度であるネガティブリスト制度とポジティブリスト制度について

平成18年に適用されたポジティブリスト制度ですが、この制度と従来の制度を比較してみましょう。まず、ネガティブリスト制度下においては、食品の成分に係る残留基準が定められているものは250農薬、33動物用医薬品等でした。

これらについて、残留基準を超えた食品は、その販売等が禁止されていました。しかし、残留基準が定められていないものの場合、それらに農薬等の残留が確認できても、基本的に販売禁止等の規制はありませんでした。その一方で、ポジティブリスト制度移行後では、残留基準が定められたものは799農薬等、さらに、これらの農薬等について、残留基準を超えて残留する食品の販売等の禁止を定めました。

従来の制度で問題となっていた”残留基準が定められていないもの”については、厚生労働省で人の健康を損なう恐れのない量として一定量(0.01ppm)を告示し、それを越えて残留する食品の販売等を禁止しました。

さらに、厚生労働大臣が指定する65農薬等については、人の健康を損なう恐れがないものとして告示し、それらをポジティブリスト制度の対象外としました。上記をまとめてみると、従来のネガティブリスト制度では、残留基準が設定されているもののみが規制を受け、それ以外の設定基準がないものは、原則として規制の対象外でした。

一方で、ポジティブリスト制度では、原則として全農薬が対象で、一律基準値(0.01ppm)を越えて残留するものの流通の禁止、さらには、残留基準値が定められたものに対し、それを越えて残留する食品の流通の禁止を定めています。

農薬を正しく使用した作物は、農薬残留に関して安全面に問題はありません

農林水産省が行った平成26年の農産物の残留実態調査では、1001点の農産物に対し4737点の農薬サンプルが分析されました。その結果、4040点で農薬の検出ゼロ、しかも、検出されたものでも、一例を除き、すべて基準値以下でした。

このように、農薬は使用基準を順守すれば、安全面に問題はありません。新鮮な野菜を、生でそのままかぶりつくこともできそうですが、衛生面上、やはり、水でよく洗って食べるのが望ましいですね。